お疲れさまです。
報道にもありますように静岡県でも緊急事態宣言の延長が正式に決定されました。大方の予想通りとは言え、商いを営む上でお客様に来店をご遠慮いただかなくてはいけないというのは何とも物悲しい話です。
このところ朝晩はすこし気温も下がり過ごしやすくなってきましたね。秋も近づいています。お越しくださいましてありがとうございます。ひでひとです。そろそろ晩酌も冷えたビールから、冷酒やワインがイイですね。つまみは軽いものでいいんですよ。なければなくても大丈夫なんです。お酒だけちびりちびりやってますから。
さて、実は昨日にまつわるお話なんですが。9月9日、この日はご存じの方も多いかと思いますが「重陽の節句」でした。いやぁ、この「でした」って書く辺りがもうアレですな。なまくら野郎でいけません。手前で書くんならともかく、過ぎてから書いてるようじゃダメ。
さて、この重陽の節句、五節句のうちのひとつです。五節句は1月7日、3月3日、5月5日、7月7日、そして9月9日。で、陰陽思想での奇数は陽とされ、その最大が重なることから重陽となったそうですな。そして旧暦ですので季節柄、菊の咲く頃合いでもありまして「菊の節句」とも呼ばれているそうです。
料理でもこのころからそろそろ秋の風情を出すようにお仕度致します。最初は夏からの移ろいを、そして錦秋と呼ばれる頃には紅葉や実りを、そして晩秋にかけてはどこか物悲しさや
冬備えを演出致します。演出と言いましても、アタクシはそもそも茶懐石のお店で修業しましたので、あまり華美に走らずに器やかいしき、盛り付けで表現致します。
意匠としての紅葉やいわゆる「竜田川」などを使ったり、織部や信楽などといった土ものに盛り付けたりします。磁器ものでは冷たさが感じられるためですね。そして秋ならではの素材を活かして献立を組みます。秋刀魚が骨ごと食べられる生姜煮や栗の蜜煮を吹き寄せ風に
盛り付けます。また昨今ではきのこは年中出回っているのですが、それでも舞茸を天ぷらにしたり、えのきやしめじなどを椀物や蒸し物に添えたりします。そして、いい松茸がでれば
お客様に卓上で焼いていただく「焼き松茸」や「土瓶蒸し」などもお仕度致します。
余談ですがよく、土瓶蒸しも鶏肉や銀杏、かまぼこや湯葉に海老なんかが入っているのを見かけますがアタクシはどうもアレ苦手なんです。「松茸の土瓶蒸し」なら松茸と添え物だけで良い。旨味がでるようにカニやエビの真丈か白身魚を小さな切り身にして入れて、三つ葉を出端に入れて酢橘を添えれば上等な品物です。他の物ごちゃごちゃ入れるなら、松茸をその分多く入れましょってのが天宏の土瓶蒸しです。
「食欲の秋」とはよく言ったもので、暑気にやられた食欲も秋風につれて旺盛になってきます。この頃になると「新酒」も出回ってワインではフレッシュなヌーボーが出てきます。熟成や複雑さも魅力とされるワインでも、殊更ヌーボーだけは、ブドウのフレッシュさが楽しめるのが魅力です。日本酒でも秋には新酒の試飲会を催す蔵元も多く、その年のお酒の出来具合いが楽しめますね。もっともこのコロナ禍では中止になってしまうところがほとんどでしょう。寂しいことです。お店でも今のところはお酒の提供は休止しています。ただワクチンの接種状態や検査での陰性が確認されれば飲食や旅行、大規模イベントなどの行動制限の緩和が検討されているようです。明るい話題で嬉しい反面、時期尚早になりはしないか不安もありますね。
季節の変わり目、特に、冬から春、夏から秋は大きく趣きが変わります。それを逃さぬようにお客様にお料理を通じてお届けするのがアタクシ達日本料理に携わる「板前」としての責務と言いますかそんなモノではないのかなぁと思っております。あ、いや、昨日の重陽の節句を遅れて書いてる人がエラそうに言えませんけどね。
菊の花にはいろいろと効能があるとされていて、菊の節句の前日夜には「着せ綿」として菊花に綿をかけて朝露を集め、その綿で身体を拭くと無病になるとされていたそうです。アタクシの修業時代、東京目白の「茶懐石 和幸」でもこの話をよく聞かせていただきました。
(茶懐石 和幸は主人高橋一郎氏の逝去により閉店)
ブログに間違いがあってはいけないと思い下調べをすることもあるのですが、この「重陽の節句」中国の唐の時代では2~3日かけて催されたことが詩仙「李白」の詩にあるそうですが、これは酒好きの李白が10日の朝に迎え酒を飲んだっていうようにも見て取れます(笑)
九日龍山飮
九日龍山飮 九日 龍山に飲めば
黄花笑逐臣 黄花(こうか)逐臣(ちくしん)を笑う
醉看風落帽 酔いては看る 風の帽(ぼう)を落とすを
舞愛月留人 舞いては愛す 月の人の留むるを
重陽の九月九日に、竜山で酒を飲めば、 黄色い菊の花が、都を逐われた私に笑いかける。 酔って見つめるのは、風が帽子を吹き落すさま。 舞いつつ喜ぶのは、月が私を引き留めること。
九月十日即事
昨日登高罷 昨日(さくじつ)登高(とうこう)罷(や)み
今朝更擧觴 今朝(こんちょう)更(さら)に觴(さかずき)を挙(あ)ぐ
菊花何太苦 菊花(きっか)何ぞ太(はなは)だ苦しき
遭此兩重陽 此(こ)の両(りょう)重陽(ちょうよう)に遭(あ)う
昨日、登高の宴は終わったのに、 今朝もまた、更に觴(さかずき)を挙げている。 菊の花には、何とも気の毒。 こんな「二度の重陽」に出くわすとは。
それでは、李白に倣って今夜も一献傾けるとしましょう。
今日もここまでお読みくださってありがとうございました。この次にお会いするときまでみなさまにステキなコトがたくさん訪れますように。それでは、また。ごきげんよう。
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