• 鈴木ひでひと

キャンセルについて

おつかれさまです。


新型コロナの新規感染者が一定の落ち着きをみせていて、なんとか商いの方もお祝いなどのご予約を承るようになってきました。ただ、20名様を超える大勢さまでの夜のご宴会は皆無です。部署ごとでの慰労会として年末になる前に行ってくださるようなお客様もございます。


お越しくださいましてありがとうございます。コロナ前までとはいかなくても、少しでも賑やかな年末が迎えられると嬉しいですね。あ、でも寒くなります、いやぁもう寒いのはニガテなひでひとです。板場でアタクシはお刺身とかデザートの担当で、火から遠いのでなかなかに寒いです。つま先とか冷たくなりますね。

 

今日は天宏本館のご予約、特にキャンセルについてのお話です。


まずご予約では、おひにち、お時間、お人数、そして会席料理のお値段を中心にお伺い致します。お電話でのご予約がほとんどで、その日のお集りのご主旨(慶弔)も伺います。この時期ですと週末のお昼には七五三のお祝いが多く、また夜では前述の慰労会などがありますね。また長寿のお祝いや平日お昼ではご接待やランチ会など多岐にわたっています。


ご来店までには日数もあるため、体調が悪くなられたり、遠方からお越しの方をお迎えしてのお食事会ともなりますと先方さまのご都合によってはこちらまでお出向きになれないことも起こらないとも言えません。そのような場合、人数変更のご連絡をいただく場合もございますが、ご予約そのもののお取消しの場合もございます。


私どもではキャンセルと聞きますと「ご予約そのものをお取消し」というようにとらえますが、行き違いがあってはいけませんので人数変更のみなのか、きちんと確認しそれでもお取消しとなりますと、そのように対処致します。4~5日以降のご予約でしたらそのままなのですが、特に当日キャンセルはちょっとビックリしますね。

一応お店の決まりとしてお料理の合計金額の「前々日の場合50%、前日75%、当日100%」をキャンセル料としていただく場合があります、とウェブサイトに記載しています。

ただこれも「一応」ということです。他のお店でも他業種でもキャンセル料は、まぁ言ってみれば当たり前で、海外ではキャッシュカードの番号をご予約時に伺う事もあるそうで、これは日本でも都市部を中心に広まっているようです。


当日どうしても行けなくなったというのにはもちろん理由があります。お子様でしたら急な発熱などがあるでしょうし大人の方でも不意の体調不良はあります。

天候や災害などで移動ができなくなったのもあるでしょう。理由のいかんを問わず一律に「決まりですからキャンセル料を全額お支払いください」なんて言うのもこちらとしてはなかなか言いにくいです。しかし、その辺りはお客様との気持ちの問題で、お互いに相手の事を尊重するのであれば「日程の変更は可能ですか?」とかお伺いしますし、「お人数減ってのご来店も難しい状況ですか?」とも伺います。


いや、もっと良いアプローチがあるのでしょうけど、コレ読んでくださってる方で電話応対のお仕事の方やホテルマンなどの方に、このような場合にどうお客様とお話を進めていけばいいのか、聞きたいくらいです。お恥ずかしい話ですが、アタクシ、そういった部分でもまだまだ経験もスキルも足りてません。






今まででたった一度だけですが、あまりご納得いただけない方がいました。お子様のお祝いでご来店1時間前のキャンセルの電話でした。行けなくなりましたからキャンセルしたいとの女性からの電話で、早々に切ろうとしていたそうで、電話出た者が慌ててアタクシまで話にきました。早速応対を替わるとお子様の急な発熱との事。

親御さんとしてはお祝いどころではないでしょう。もちろんキャンセルは承ったのですが、理由が理由ですので全額なんて事は申し上げにくいので70%を落としどころと致しました。


これ、本当言いますと理由が理由っておかしい話なんです。突発的なアクシデントでご来店できなくなったのはみなさん同じなはずです。そこを決まりだからと紋切り調子ですすめていくのも人情が無い。しかしお客様からしてみれば「食べてもないものにお金は払いたくない」という心情が出てくるのもわかります。でも、コレ、ホントに内々の話で恐縮ですが、ご来店一時間前だとお料理の5割ほどはある程度支度出来てます。前菜は盛り付けが終わり、お刺身は人数にもよりますがそろそろ切り出し盛り付けにかかります。焼き魚も塩をあてたり、幽庵地などに漬けたりします。お部屋に限っては一部屋おさえてあるわけですから、その部屋の収容人数のお客様はお断りすることもあります。こういう事柄も含めての70%だったわけです。しかしながら、アタクシがお子様のご容態をうかがっても生返事と言いますか、その、切迫感と言いますか、その辺りが感じられず、すぐにでも電話を終わらせたいような雰囲気でした。あ、いや、コレ、アタクシの主観ですから、ね。


キャンセル料の金額をお話しても「それでいいんですか?」「お支払いに行けばいいんですか?いつ行けばいいですか?」と言われましたので、「お子様のお熱が下がってからで構いませんよ」などのやり取りがありました。



そして翌日にお支払いに見えたのは男性。対応してくれたのはこの件の電話を最初にとった女性スタッフです。見るからに機嫌が悪そうで、お札を投げ捨てるようにしてお支払いになったそうです。もちろんおつりがありますのでお渡ししようとすると要らないとばかりに足早にお帰りになったそうです。その女性スタッフも「お子様の具合はどうですか?少しはお熱下がりましたか?」と聞いたそうですが、もちろんガン無視だそうでした。いや、正確には言い終わるを待たずして万札が飛んだそうですよ。


その女性スタッフは「申し訳ありませんでした」って謝っちゃいました、と言ってました。こちらはお客様商売です。そうなったら誰だって謝ります。しかしねぇ。どう言えばいいのかわかりませんが、もやもやします。お子様のご様子をなぜ話してくれないのだろう、とか、アタクシが応対してもその男性は不機嫌そうにお金を投げつけるように払っただろうか、とか。キャンセル料がご不満なら、なぜ食べてもいないのに金払うのかってはっきり言ってくれればいいんですよ。そうすればこっちは謝ります。ご不満はごもっともですからね。しかしながらこちらにも事情があって…なんて話をするわけです。


正直言って、キャンセル料は保険だと思っています。特に大勢さまのキャンセルを防ぐための措置です。キャンセル料が発生してしまうと思っていただくことでご予約の段階でより確実にご検討いただけると考えています。いたずら防止もありますが、本来100%お支払いしていただくのが趣旨ではないんです。抑止効果とでもいえば良いのか、注意喚起とでもいえばいいのか、ちょっとわかりませんけどね。




キャンセル料いただいて、そのお金で潤うのはビジネスです。アタクシ達料理人が料理に込めた気持ちには、なーーーんにももたらしてくれません。季節やお越しになる目的に合わせて器組みをして、掛け軸などにも気を配ります。お祝いならばそのように、故人を慕う集まりでは華美にならないよう気を付けます。旬の素材を仕入れてその素材に嘘をつかないようにお料理をする、そんな板前の気持ちです。先のお話の方であれば一言でいいので「子供の心配をしていただきまして…」と言ってくだされば良いんです。


そうすれば、アタクシ達も報われます。「ありがとうございます」って御礼とか「キャンセルしてすみません」って謝ってなんてのじゃないんです。どんなお気持ちを伝えたかったのかわかりませんが、お札も投げずに渡して、お子様の容態も話してくれたら報われるのです。なんならウソでも良いんですよ、確かめなんてしませんから、そのウソでもいい一言があれば、もやもやすることもなく、また元気になったらお越しくださいねって気持ちよく言えます。そのお声かけする余地すらもない。取り付く島もないとは正にこのようなことをいうのでしょう。






これはわりと最近のお話なのですが、やはり当日キャンセルのご連絡がありました。火曜日のお昼のお客様で遠方からの来客と一緒にご来店とのことですが、急遽こちらにこれなくなったとの事でした。月曜日に連絡したらお休みだった、との事で、これはお店としても困りました。当日のキャンセル料の事をお話しましたが、定休日の連絡手段が無かったことは仕方のないこと、お話していくうちに、夜ならばこちらの者だけでも来店できるとのお言葉をいただきました。当初の人数よりは減ってはしまいますがお客様にはお料理を楽しんでいただくことができますし、お支払いはご来店の人数分だけになります。そしてなにより、行き場を失いかけた板前の気持ち、おもてなしの心がちゃんとたどり着くべき場所に向かうことができるのです。


夜ご来店いただいた時にご挨拶におもむきまして、無理を強いてしまったことをお詫びし、また、ご来店いただいた御礼も申し上げました。聞けばお近くにお住まいの方で別館「椿」には度々ご来店いただいているとの事でした。アタクシもつい本音がでて、お越しいただいたことでお金では買えない私たちの気持ちを汲み取っていただけて本当にうれしく有難かったとお伝えしました。コロナ禍で外食や旅行も控えていたところ、遠方からの来客で久しぶりに天宏で、となったそうで、アタクシの本音につられてかどうかはわかりませんがお客様もはっきりとお話してくれて、キャンセル料払うよりご馳走食べた方がいいとの事だったとお話を伺いました。


まぁ、アタクシの本音が良かったのかどうかはわかりませんが、お客様も腹を割ってはっきりと言ってくれたのならば良しとしてもいいのかもしれません。




どのような事情でもお客様のご要望には最大限お答えしたいのですが、こちらと致しましてもいろいろと事情がございます。商いを続けていく上で上からモノを言って押し付ける

ようで恐縮ですがキャンセル料についてはご理解をいただきたく存じます。


今日もここまでお読みくださってありがとうございました。この次にお会いする時まで皆様にステキなコトがたくさん訪れますように。それでは、また。ごきげんよう。